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研究業績

公衆衛生・家畜衛生対策における意思決定に関する研究

 家畜および人において、感染症の制御・制圧には集団レベルでの疾病状況の把握、リスク因子の特定、数理モデルの応用による発生初期の発生拡大予測や介入前の効果予測、そして疫学的エビデンスに基づいた介入の実施と効果判定が重要です。また、疾病の経済的あるいは社会的被害の定量化と、制御オプションの費用対効果の計算は、公的資金の投入を伴う介入方法の検討には不可欠であると考えられます。
 獣医疫学ユニットでは、このような公衆衛生・家畜衛生対策における意思決定に関する研究を実施しています。ここでは、別立てで説明する発展途上国における人獣共通感染症、食品衛生に関する研究、日本での精神保健学および社会経済学的研究、東日本大震災対応以外について、これまでの取り組みを紹介します。
 2010年には、医学・獣医学のみならず広い分野で注目されている「都市周辺部」について、無作為抽出した地域を迅速に都市度分けすることで地図を作成する方法を、ウガンダでの実例を用いて開発し公表しました。これは様々な国の様々な分野で応用検討して頂いているようです。
 2013年からは、1956年のわが国での撲滅から60年以上経過した狂犬病について、清浄国としての対策のあり方を検証するために研究を実施してきました。具体的には、日本での記録に残されている限りの過去の発生状況を集積し、特に大正から昭和初期にかけて大阪で猛威を振るったアウトブレイクについて、感染症学的に流行を定量化し、現在の常在国での知見の応用について考察しました。次に、この大正時代の感染力を示す基本再生産数R0(一頭の感染犬が発症させる犬の頭数)を用いて、今日本に万が一検疫をすり抜けて狂犬病感染犬が侵入してきた場合、発症して何頭の犬に狂犬病が拡大するか数理モデルを用いて予測しました。またこの際に何人が狂犬病発症犬に咬まれるか、そして犬への狂犬病予防接種を中止したとしたら、何頭の犬に感染が拡大するかについても予測しました。この研究により、改めて狂犬病の恐ろしさをリアルに感じました。犬飼育方法の大きく変化した現代の日本では、狂犬病侵入時の感染拡大はワクチン接種無しでもほとんどの場合制御可能な程度で終息するでしょう。しかしながら、狂犬病の危機意識のない今、万が一国内に狂犬病が侵入した場合、咬傷を受けた人の中から一人でも死者が出る可能性、またパニックにより全国的にワクチンが枯渇する事態に発展するリスクは高いと思われます。今後非常に低い侵入リスクの現状も踏まえて、定量的リスク評価に基づくわが国の狂犬病対策の議論が活発に行われることを期待しています。
 2014年には、全国的な流行となった豚流行性下痢(PED)について、鹿児島県および宮崎県での流行初期における、農場間感染拡大のリスク因子を、症例対照研究を用いて明らかにしました。当時PEDは世界的な流行となり、カナダでは汚染された餌による発生拡大が見られたこともあり、わが国では様々な感染ルートによる感染拡大が懸念されていました。研究の結果、餌や精液の汚染が原因ではなく、共同堆肥施設の利用や家畜排泄物運搬サービスの利用など、糞便中に含まれるPEDウイルスによる機械的な伝播、またと畜場における交差汚染が原因で感染拡大したことが明らかとなりました。またPED発生中ワクチンが入手困難になり、発生農場で死亡哺乳豚の腸管ミンチなどを用いた母豚への免疫付与、「強制馴致」が行われました。本方法は野外ウイルスを広く拡散させる恐れがあり農林水産省では推奨されていない一方、管理獣医師の指導の下で効果が見られているとの報告がある方法です。当ユニットでは、鹿児島県と宮崎県の協力を得て、前述の研究データと県の発生データを用いて、強制馴致の効果について疫学的に検証しています。
 エキノコックスは北海道に広く分布するアカギツネとエゾヤチネズミに蔓延して感染環が維持されており、毎年約20名程度の新規感染患者が発生し重篤な肝機能障害を起こす人獣共通感染症です。当研究ユニットでは、まずは未だ確立されていないアカギツネの生息数推定方法について、2013年から2018年にかけて継続して根室地域で調査を実施し、キツネ糞便数のカウントと地域の生態学的条件、そして北海道が継続調査しているキツネ繁殖巣の位置と照らし合わせながら検討を進めています。キツネの排便と生態学的条件との関係はほぼ明らかとなっており、学会賞を受賞するなどその取り組みが注目されています。キツネ生息数の把握には、すでに確立されているキツネ糞便中のエキノコックス虫卵検出と併せて人への感染リスクを提示するのに役立ち、駆虫薬の適正な散布数、地域全体の有病率計算など、応用範囲が広い課題となっています。
 2016年からは、JICA草の根技術協力事業「ムバララ県安全な牛乳生産支援プロジェクト」が採択され、ウガンダ国ムバララ県にて、(1)搾乳衛生技術、(2)牛の栄養・繁殖管理技術、(3)東海岸熱対策の向上による牛乳生産性および安全性向上を目指すプロジェクトを展開しています。これまでに潜在性乳房炎、繁殖障害、東海岸熱媒介ダニ薬剤耐性を起こすリスク因子解析を終了し、介入パッケージの普及を実施しています。搾乳衛生に関しては、水の出る牛舎から離れた場所でも搾乳前の乳頭清拭が衛生的に行えるよう、「モバイル一頭一布」技術を考案し、日本の市民の皆様からお送りいただいた布を参加農家に手渡しし、日本とウガンダの市民交流を推進しています。
 2015年度からは牛マイコプラズマ性乳房炎の発生リスク因子について調査を進めてきました。疫学的には搾乳衛生の向上が効果的予防に有効なことが示唆されており、換言すれば農場内環境中にマイコプラズマが存在している可能性があると言えます。現在子牛の時の肺炎や中耳炎の影響についても解析を進めています。2016年には、道東地域の牛サルモネラ症のリスク因子について解析し、報告しています。山形県においてはNOSAI山形と共同で牛レプトスピラ症の浸潤状況およびリスク因子を解析しています。また2017年からは、日本の牛群に広く蔓延してしまった牛白血病について、それぞれの酪農場での制圧対策策定に有用な生産者と担当獣医師間の双方向コミュニケーションを支援するための数理モデルを開発しています。

研究資金

2017-2019北海道総合研究所 重点研究課題「牛白血病ウイルス清浄化を目指したウイルス伝播防止技術体系の構築」 分担研究者.
2016-2019JICA草の根技術協力事業「ムバララ県安全な牛乳生産支援事業」 プロジェクトマネージャー.
2014飼養衛生管理基準の実効性に関する調査.農林水産省.研究代表者
2013-2017平成25年農林水産省「食品の安全性と動物衛生の向上のためのプロジェクト」 課題名「重要家畜疾病の迅速・的確な防疫措置に必要な技術の開発」 研究分担者
2013-2015平成25年度厚生労働科学研究費補助金(新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業)「わが国における狂犬病対策の在り方に関する調査研究」 研究分担者

業績

Peer review paper

Sasaki, Y., Toyomaki, H., Sekiguchi, S., Sueyoshi, M., Makita, K., Otake, S., Perez, A., and Alvarez. 2017. Spatial dynamics of porcine epidemic diarrhea (PED) spread in the southern Kyushu, Japan. Preventive Veterinary Medicine.

Ando T, Takino T, Makita K, Tajima M, Koiwa M, Hagiwara K. 2016. Sero-epidemiological analysis of vertical transmission relative risk of Borna disease virus infection in dairy herds. Journal of Veterinary Medical Science.

Kurosawa A, Kadowaki H, Hampson K, Makita K, et al. The rise and fall of rabies in Japan: a quantitative history of rabies epidemics in Osaka Prefecture, 1914-1933. PLOS Neglected Tropical Diseases 11(3):e0005435. doi: 10.1371/journal.pntd.0005435.

Adachi and Makita. 2017. Time series analysis based on two-part models for excessive zero count data to detect farm-level outbreaks of swine echinococcosis during meat inspections. Preventive Veterinary Medicine.

Adachi Y., Makita K. (2015) Method of time series analysis of meat inspection data using seasonal autoregressive integrated moving average model. Journal of the Japan Veterinary Medical Association 68 (3): 189-197.

Adachi Y., Makita K. (2015) Real time detection of farm-level swine mycobacteriosis outbreak using time series modelling of the number of condemned intestines in abattoirs. Journal of Veterinary Medical Science 1;77(9):1129-36.

Makita K, Tobinaga T, Kadowaki H, Yamamoto H. (2013) The effects of the types of post milking teat disinfectants on the occurrence and cost of mastitis caused by Staphylococcus aureus among dairy herds in Okhotsk, Japan. Journal of Veterinary Epidemiology 17(2): 125-131.

Makita K, Noda J, Kirisawa R. (2012) An inactivation experiment of genus Aphthovirus bovine rhinitis B virus inserted in the central part of an imported straw bale to Japan by heat and humidity treatment. J. Rakuno Gakuen Univ. 37(1), 19-23 (in Japanese).

Makita K, Fèvre EM, Waiswa C, Bronsvoort MDC, Eisler MC, Welburn SC. (2010) Population dynamics focussed rapid rural mapping and characterisation of the peri-urban interface in Kampala, Uganda, Land Use Policy, 27, 888-897.



Invited presentations

Makita K. Promotion of One Health and Ecohealth through veterinary epidemiology. Annual Conference of Japan Society of Bioinformatics. 2017 October 9, Hokkaido University, Sapporo, Japan.

Makita K. Epidemiology and its application to the field. NOSAI Hokkaido, 2017 May 17, Sapporo, Japan.

Makita K. What epidemiology can tell? From basic to application. Hokkaido Research Institute, 2017 May 17, Shintoku, Japan.

Makita K. Application of animal health economics to livestock farming. Invited speech. Japan Veterinary Association high level technical seminar, 2016 January 19, Tochigi, Japan.

Makita K. Computer simulation for rabies spread in Japan. Invited speech. Ministry of Health, Labour and Welfare, Rabies Prevention Meeting, 2016 February 23, Tokyo, Japan.

Makita K. MAFF 2014 Grant, Efficacy of Standard Rearing Hygiene Management –Porcine Epidemic Diarrhea (PED) investigation results-. Invited speech. PED Seminar, University of Miyazaki, 2016 December 8-9, Miyazaki and Kagoshima, Japan.

Makita K. (2015) 我が国における狂犬病拡散リスクの評価. 特別講演「社会情勢の変化を踏まえた我が国における狂犬病対策のあり方」第15回人と動物の共通感染症研究会学術集会. 国立感染症研究所 October 31, 2015.

蒔田浩平.(2013) 疫学によるエビデンスに基づく獣医療.家畜感染症学会シンポジウム.

蒔田浩平.(2011) 食品衛生モデリングの手順. 農林水産省動物医薬品検査所平成 23 年度講演会.

蒔田浩平.(2011) オホーツク獣医師会技術講習会, フィールドで使える獣医疫学.



Presentation at international conferences

Miyama T, Watanabe E, Ogata Y, Urushiyama Y, Kawahara N, Makita K. 2017. The necessity of controlling bovine leptospirosis in Japan. OIE Joint Collaborating Centre for Food Safety Seminar, 2017 January 16th, Rakuno Gakuen University, Ebetsu, Japan.

Makita K, Yamamoto T. 2016. Comparative analysis of inter-farm spread of porcine epidemic diarrhea in Miyazaki and Kagoshima Prefectures in Japan using mathematical modeling. Japan-Republic of Korea Joint Symposium on Veterinary Epidemiology, 2016 June 11, University of Tokyo, Tokyo, Japan.

Makita K., Toyomaki H., Sekiguchi S., Sasaki Y., Sueyosh M. (2015) Factors associated with inter-farm spread of porcine epidemic diarrhea (PED) in Kagoshima and Miyazaki Prefectures, Japan. International Society for Veterinary Epidemiology and Economics (ISVEE 14) conference, poster presentation, November 2015, Merida, Mexico.

Kadowaki H., Makita K., Hampson K., Yamada A. (2015) Assessment of current rabies prevention act in Japan using infectious disease modelling. International Society for Veterinary Epidemiology and Economics (ISVEE 14) conference, oral presentation, Merida, Mexico, November 6, 2015.

Maita K., Yokozawa T., Uraguchi K., Makita K. (2015) Developing a method estimating red fox population from feces count in Nemuro Peninsular, Japan.5th International Wildlife Management Congress, oral presentation, Sapporo, Japan, July, 2015.

Makita K., Toyomaki H., Sekiguchi S., Sasaki Y., Sueyosh M. (2015) Spatio-temporal analysis of porcine epidemic diarrhea (PED) epidemic in Kagoshima and Miyazaki, Japan in 2014.7th International Symposium on Emerging and Re-emerging Pig Diseases. Oral presentation, June 2015, Kyoto, Japan.

Toyomaki H., Sekiguchi S., Sasaki Y., Sueyosh M., Makita K. (2015) Effective farm level biosecurity measures against porcine epidemic diarrhea (PED) epidemic in Kagoshima and Miyazaki, Japan.7th International Symposium on Emerging and Re-emerging Pig Diseases. Poster presentation, June 2015, Kyoto, Japan.



Presentations at conferences in Japan

Fujimoto Y, Nakada S, Ito H, Makita K. 2017. Association between farm hygiene management and productivity of daily cattle. SaSSOH, 2017年9月21日 北海道大学

三山豪士, 村田亮, 岡村郁夫, Byaruhanga J, Mwebembezi W, 村松康和, 蒔田浩平. 2017. ウガンダ国ムバララ県の酪農場における乳房炎発生状況と搾乳衛生調査. 第 160回日本獣医学会学術集会, 2017年9月14日, 鹿児島大学.

藤本悠理、伊藤弘貴、樋口豪紀、蒔田浩平、大野浩. 2017. 根室地区におけるマイコプラズマ乳房炎の発生に関する疫学調査. 第160回日本獣医学会学術集会 9月14日 鹿児島大学

深江征雄, 大西綾衣, 黒澤拓也, 藤代れい一, 横山智, 大野博士, 山形章, 足立泰基. 養豚場における食肉検査結果の決定要因の主成分分析による解析法. 獣医公衆衛生学会, 2017年9月7日, 北海道大学.

唐澤迪子, 浦口宏二, 早山陽子, 蒔田浩平.2017. 北海道・根室におけるキタキツネ糞便数に影響する生態学的因子の多変数空間解析.第49回獣医疫学会学術集会.2017年3月25日.東京大学.

三山豪士, 豊巻治也, 関口敏, 佐々木羊介, 末吉益雄, 蒔田浩平. 鹿児島県、宮崎県の PED 発生農場における 馴致効果の検証. 第 49 回獣医疫学会学術集会, 2017年3月25日. 東京大学.

三山豪士, 渡辺栄次, 小形芳美, 漆山芳郎, 河原直哉, 蒔田浩平. 2017. 山形県における酪農場レベルのLeptospira血清型Hardjo浸潤リスク因子. 第54回レプトスピラ・シンポジウム, 2017年3月22日, 仙台.

Nakata S, Makita K, et al. 2016. Statistical model for estimating bovine leukaemia virus load in blood. Hokkaido Veterinary Association Conference, 2016 Sep 1-2, Asahikawa, Japan.

Miyama T, Makita K, et al. 2016. Evaluation of prevention measures for bovine leukaemia virus new infections in the infected farms. Hokkaido Veterinary Association Conference, 2016 Sep 1-2, Asahikawa, Japan.

Ito H, Higuchi H, Makita K. 2016. Epidemiological investigation for Mycoplasma mastitis occurrence in Nemuro, Japan. Japan Society for Veterinary Medical Science, September 6-8, Nihon University, Kanagawa, Japan.

Nakata S, Makita K. 2016. A case-control study for bovine salmonellosis in Nemuro, Japan. Japan Society for Veterinary Medical Science, September 6-8, Nihon University, Kanagawa, Japan.

Ito H, Higuchi H, Makita K. 2016. Descriptive epidemiology of the incidence of Mycoplasma mastitis in Nemuro, Japan. Japan Society for Veterinary Epidemiology, 2016 March 20, University of Tokyo, Tokyo, Japan.

Makita K, Yamamoto T. 2016. Analysis of inter-farm spread of porcine epidemic diarrhea using mathematical modeling. Japan Society for Veterinary Epidemiology, 2016 March 20, University of Tokyo, Tokyo, Japan.

Kadowaki H., Makita K., Hampson K., Yamada A. (2015) Prediction of spread of rabies at its invasion into Japan. Japan Society of Veterinary Medical Science.

Makita K., Toyomaki H., Sekiguchi S., Sasaki Y., Sueyosh M. (2015) Spatio-temporal analysis of spread of porcine epidemic diarrhea (PED) in Kagoshima and Miyazaki Prefectures, Japan. Japan Society for Veterinary Epidemiology Conference.

Makita K., Niemi JK., Waret-Szkuta A., Gethmann J., Aragrande M., Hogeveen H., Hasler B., Bennani H., Rushton J. (2015) NEAT: Networking to enhance the use of economics in animal health education, policy making and research in Europe and beyond. Japan Society for Veterinary Epidemiology Conference.

Koide K., Murata R., Khoa AX., Ly NK., Tam PT., Tra VTT., Nhiem DV., Kono H., Makita K. (2015) Causes of mastitis and repeat-breeding of dairy herds in a select dairy production area of Vietnam. Japan Society for Veterinary Epidemiology Conference.

横澤輝美・浦口宏二・蒔田浩平 (2014) 北海道根室半島におけるアカギツネの生息数と関連生態学的パラメータの推定.獣医疫学会学術集会.

黒澤愛子・唐人原景昭・蒔田浩平 (2014) 大正および昭和初期の大阪府における狂犬病発生の疫学解析.獣医疫学会学術集会.

足立泰基・蒔田浩平 (2014) と畜場における腸抗酸菌症による廃棄数の時系列モデリング.獣医疫学会学術集会.

渡部卓人・馬場秀人・平野達也・藤野重治・餌取康夫・壱岐佳浩・蒔田浩平 (2014) 参加型調査を用いた各畜種の農場における衛生対策の実践と意識に関する質的分析.獣医疫学会学術集会.

飛永崇晴,山本展司,蒔田浩平:乳牛における黄色ブドウ球菌性乳房炎の発症に関連する
因子, 獣医疫学学術集会 (2011).

酪農学園大学獣医疫学ユニット(2014.05.17)|
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