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発展途上国における持続可能な食品衛生向上

掲載日:2014.05.17

 発展途上国では、ほとんどの食品が非正規流通、いわゆる「闇市」を通って販売されます。これまでは、政府が管理する正規食品流通について国際的支援がなされてきました。また食品の小規模生産者へは、流通を考慮することなく、生産性向上の支援が行われてきました。
 このようなアプローチでは、正規流通経路に販路のない小規模生産者への支援が成功することは稀であり、途上国の多くの人が「質」より「安さ」を求める闇市食品の衛生が向上することもなかったのです。
 そこで国際農業研究が今取り組もうとしているのは、流通経路:バリューチェイン(以下VC)に着目し、食品のリスクと経済性、それから伝統的考えを考慮しながら、小規模生産者が生産する食品の衛生を向上し、出来るだけ安価に正規VCに組み入れる介入研究です。疫学ユニットでは、これまで国際家畜研究所(ILRI)と共同で、サハラ以南アフリカ8か国およびベトナムにて多くのプロジェクトに取り組んでいます。ここでILRIのDelia Grace博士らが概念形成した「参加型リスク評価」という新しい手法を蒔田教授が中心となって確立させ、多くの国で使われるようになりました。
 この成果の一つとして、エチオピアでは伝統的に牛乳を煮沸することなく発酵により食中毒菌を減少させてきたことが明らかとなり、伝統的食文化の価値を現代の技術で検証することによる持続性、実現可能性の高い食品衛生管理の提唱が評価され、2016年に国連食糧農業機関(FAO)本部で招待講演をさせていただきました。
 ベトナムでは、肉の中で最も消費量の多い豚肉の、小規模農場で生産されたVCについて、サルモネラ症をターゲットとして定量的リスク評価を実施しました。この取り組みはベトナム初となり、現在持続性のある介入案の研究が、オーストラリア出資の新たな研究プロジェクトで検討されています。このリスク評価を実施した当ユニットのベトナム人大学院生は2018年に博士号を取得し、ベトナムで初めて医学系学部で研究する獣医師となっています。

酪農学園大学獣医疫学ユニット(2014.05.17)|

薬剤耐性に関する研究

掲載日:2014.05.17

 抗生物質は、過去に人の死因第一位であった細菌感染症による被害を大幅に減少させ、公衆衛生の向上に大きく貢献しました。また抗生物質は私たちの食糧を生産するための家畜を感染症の苦痛から開放し、速やかに快復させるために大きく役立っています。しかしながら、農場での生産動物に対する抗生物質の使用による、動物における薬剤耐性菌選択、さらに家畜由来薬剤耐性菌による人への健康影響の可能性が指摘されています。
また世界中での薬剤耐性菌研究の進展により、人の医療に重要な抗生物質の耐性を伝達するプラスミドの動物ならびに人集団への拡散の危険性が指摘されており、特に薬剤耐性遺伝情報を持ったプラスミドの受取りによる多剤耐性菌性食中毒、日和見感染および院内感染発生時に最後の望みとなる薬剤が治療効果を発揮しない事態の発生が懸念されています。
このような脅威に対応するため、2015年に世界保健機関WHOは薬剤耐性に関するグローバルアクション・プランを策定、わが国では関係省庁・関係機関連携のもと翌2016年に国内のアクションプランが策定され、公衆衛生・家畜衛生の垣根を越えたワンヘルスの取り組みが始まっています。
 獣医疫学ユニットでは、生産現場での抗生物質の使用と動物由来薬剤耐性菌の選択に関する疫学、このような知見の細菌学的研究へのフィードバックと共同研究計画、またワンヘルスの枠組みでの動物由来薬剤耐性菌の人への健康影響評価を実施しています。

酪農学園大学獣医疫学ユニット(2014.05.17)|

公衆衛生・家畜衛生対策における意思決定に関する研究

掲載日:2014.05.17

 家畜および人において、感染症の制御・制圧には集団レベルでの疾病状況の把握、リスク因子の特定、数理モデルの応用による発生初期の発生拡大予測や介入前の効果予測、そして疫学的エビデンスに基づいた介入の実施と効果判定が重要です。また、疾病の経済的あるいは社会的被害の定量化と、制御オプションの費用対効果の計算は、公的資金の投入を伴う介入方法の検討には不可欠であると考えられます。
 獣医疫学ユニットでは、このような公衆衛生・家畜衛生対策における意思決定に関する研究を実施しています。ここでは、別立てで説明する発展途上国における人獣共通感染症、食品衛生に関する研究、日本での精神保健学および社会経済学的研究、東日本大震災対応以外について、これまでの取り組みを紹介します。
 2010年には、医学・獣医学のみならず広い分野で注目されている「都市周辺部」について、無作為抽出した地域を迅速に都市度分けすることで地図を作成する方法を、ウガンダでの実例を用いて開発し公表しました。これは様々な国の様々な分野で応用検討して頂いているようです。
 2013年からは、1956年のわが国での撲滅から60年以上経過した狂犬病について、清浄国としての対策のあり方を検証するために研究を実施してきました。具体的には、日本での記録に残されている限りの過去の発生状況を集積し、特に大正から昭和初期にかけて大阪で猛威を振るったアウトブレイクについて、感染症学的に流行を定量化し、現在の常在国での知見の応用について考察しました。次に、この大正時代の感染力を示す基本再生産数R0(一頭の感染犬が発症させる犬の頭数)を用いて、今日本に万が一検疫をすり抜けて狂犬病感染犬が侵入してきた場合、発症して何頭の犬に狂犬病が拡大するか数理モデルを用いて予測しました。またこの際に何人が狂犬病発症犬に咬まれるか、そして犬への狂犬病予防接種を中止したとしたら、何頭の犬に感染が拡大するかについても予測しました。この研究により、改めて狂犬病の恐ろしさをリアルに感じました。犬飼育方法の大きく変化した現代の日本では、狂犬病侵入時の感染拡大はワクチン接種無しでもほとんどの場合制御可能な程度で終息するでしょう。しかしながら、狂犬病の危機意識のない今、万が一国内に狂犬病が侵入した場合、咬傷を受けた人の中から一人でも死者が出る可能性、またパニックにより全国的にワクチンが枯渇する事態に発展するリスクは高いと思われます。今後非常に低い侵入リスクの現状も踏まえて、定量的リスク評価に基づくわが国の狂犬病対策の議論が活発に行われることを期待しています。
 2014年には、全国的な流行となった豚流行性下痢(PED)について、鹿児島県および宮崎県での流行初期における、農場間感染拡大のリスク因子を、症例対照研究を用いて明らかにしました。当時PEDは世界的な流行となり、カナダでは汚染された餌による発生拡大が見られたこともあり、わが国では様々な感染ルートによる感染拡大が懸念されていました。研究の結果、餌や精液の汚染が原因ではなく、共同堆肥施設の利用や家畜排泄物運搬サービスの利用など、糞便中に含まれるPEDウイルスによる機械的な伝播、またと畜場における交差汚染が原因で感染拡大したことが明らかとなりました。またPED発生中ワクチンが入手困難になり、発生農場で死亡哺乳豚の腸管ミンチなどを用いた母豚への免疫付与、「強制馴致」が行われました。本方法は野外ウイルスを広く拡散させる恐れがあり農林水産省では推奨されていない一方、管理獣医師の指導の下で効果が見られているとの報告がある方法です。当ユニットでは、鹿児島県と宮崎県の協力を得て、前述の研究データと県の発生データを用いて、強制馴致の効果について疫学的に検証しています。
 エキノコックスは北海道に広く分布するアカギツネとエゾヤチネズミに蔓延して感染環が維持されており、毎年約20名程度の新規感染患者が発生し重篤な肝機能障害を起こす人獣共通感染症です。当研究ユニットでは、まずは未だ確立されていないアカギツネの生息数推定方法について、2013年から2018年にかけて継続して根室地域で調査を実施し、キツネ糞便数のカウントと地域の生態学的条件、そして北海道が継続調査しているキツネ繁殖巣の位置と照らし合わせながら検討を進めています。キツネの排便と生態学的条件との関係はほぼ明らかとなっており、学会賞を受賞するなどその取り組みが注目されています。キツネ生息数の把握には、すでに確立されているキツネ糞便中のエキノコックス虫卵検出と併せて人への感染リスクを提示するのに役立ち、駆虫薬の適正な散布数、地域全体の有病率計算など、応用範囲が広い課題となっています。
 2016年からは、JICA草の根技術協力事業「ムバララ県安全な牛乳生産支援プロジェクト」が採択され、ウガンダ国ムバララ県にて、(1)搾乳衛生技術、(2)牛の栄養・繁殖管理技術、(3)東海岸熱対策の向上による牛乳生産性および安全性向上を目指すプロジェクトを展開しています。これまでに潜在性乳房炎、繁殖障害、東海岸熱媒介ダニ薬剤耐性を起こすリスク因子解析を終了し、介入パッケージの普及を実施しています。搾乳衛生に関しては、水の出る牛舎から離れた場所でも搾乳前の乳頭清拭が衛生的に行えるよう、「モバイル一頭一布」技術を考案し、日本の市民の皆様からお送りいただいた布を参加農家に手渡しし、日本とウガンダの市民交流を推進しています。
 2015年度からは牛マイコプラズマ性乳房炎の発生リスク因子について調査を進めてきました。疫学的には搾乳衛生の向上が効果的予防に有効なことが示唆されており、換言すれば農場内環境中にマイコプラズマが存在している可能性があると言えます。現在子牛の時の肺炎や中耳炎の影響についても解析を進めています。2016年には、道東地域の牛サルモネラ症のリスク因子について解析し、報告しています。山形県においてはNOSAI山形と共同で牛レプトスピラ症の浸潤状況およびリスク因子を解析しています。また2017年からは、日本の牛群に広く蔓延してしまった牛白血病について、それぞれの酪農場での制圧対策策定に有用な生産者と担当獣医師間の双方向コミュニケーションを支援するための数理モデルを開発しています。

酪農学園大学獣医疫学ユニット(2014.05.17)|

我が国の家畜衛生対策に係る精神医学的・社会経済学的研究

掲載日:2014.05.17

 2010年に宮崎県で発生した口蹄疫は、我が国の畜産業のみならず、観光業や地域の飲食店業を初めとする広い産業に2350億円と試算される甚大な経済的被害をもたらしました。しかし被害は経済に限ったことではなく、被災農家、防疫従事者、それから地域住民のメンタルヘルスに大きな影響を与えました。当ユニットでは、国立精神・神経医療研究センター、国連大学および宮崎県の精神保健の専門家およびNOSAIみやざきの獣医師と合同で、被災農家、防疫従事者および周辺住民の精神疫学研究を実施し、獣医・畜産学の知識を用い、きめ細やかな解析と介入への助言を行ってきました。この取り組みの蓄積は地域の獣医師に受け継がれ、豚流行性下痢(PED)発生時には、生産者の精神的支援に生かされています。
 また2013年度からは、農場における家畜衛生対策に係る意識と実践について研究しています。家畜伝染病の制御には、各農場の衛生意識が非常に重要な役割を果たします。農場レベルでの衛生意識に関係する因子を見つけることで、畜産関係者がより効果的に衛生対策の普及啓もうが実施できるようになる可能性があります。これまでの研究で、農場衛生実践の決定には、知識と意識(互いに関係している)の高さ、そして農場規模や後継者、資産などのキャパシティーが関与していることが示唆されています。今後の解析方法の向上でより詳細に理解出来る可能性があります。
 疾病の経済評価も重要な課題です。2013年から2014年にかけてのPED発生について、宮崎大学と共同で経済評価を実施しました。2017年度からは、これまで明らかとなって来なかった牛白血病ウイルス感染による酪農家における経済損失について、牛乳生産量、乳価、肉の生産量を勘案して解析を進めています。

酪農学園大学獣医疫学ユニット(2014.05.17)|

東日本大震災石巻市環境リスク評価

掲載日:2014.05.17

 2011年3月11日、三陸沖でマグニチュード9.0の地震が発生し、巨大津波が東北・北関東沖を襲いました。酪農学園大学からは、死者数の最も多かった宮城県石巻市に5月から定期的にボランティアを派遣するとともに、石巻市とともに環境の悪化した被災地域の環境リスク評価を実施して来ました。

酪農学園大学獣医疫学ユニット(2014.05.17)|

発展途上国における顧(かえり)みられない人獣共通感染症

掲載日:2013.11.20

 発展途上国には、先進国ではすでに制圧されてしまった風土病的人獣共通感染症が未だ多く発生し、公衆衛生上また経済的にも大きな影響を与えています。一方、ウイルスの突然変異により人集団でのパンデミックの恐れが指摘されている鳥インフルエンザや、HIV/AIDS、結核といった特定の致死性疾病の対策に偏って国際的援助が行われているため、国際保健機関(WHO)から顧みられない人獣共通感染症として指定されている疾病があります。
 当ユニットではこのうちブルセラ病に焦点を当てて常在国で研究を実施してきました。ブルセラ病は世界で最も蔓延している人獣共通感染症の一つで、家畜には流産を起こし、人には持続性、波状型の熱、倦怠感などの全身症状の他、骨関節症などの局所病変を起こします。2005年から2008年にかけて実施したウガンダの研究では、首都カンパラの都市周辺部で放牧により牛ブルセラ病が維持されており、都市人口へのリスクの多くは酪農生産地帯から大量に流通する生乳の飲用によるものであることが分かりました。これを受けて人ブルセラ症の制御には、液乳主体の流通を維持するならば、煮沸施設を生産地あるいは首都近くに整備する必要があることを助言しました。スリランカでは、2015年と2016年に調査を実施し、地域、民族により有病率が異なること、牛群間の感染拡大に寄与する牛の売買では、流産経験牛を売却する隠蔽行動は見られず、正しい知識の普及が生産者を巻き込んだ疾病制圧に重要であることが明らかとなりました。タンザニアでは、2013年から2017年にかけて研究が実施されました。この研究ではモロゴロ州の獣医官・医官、ソコイネ農業大学獣医学部ならびにタンザニア国首相事務所ワンヘルス・ネットワークと連携し、牛ブルセラ病が農業放牧混合地域で多く、放牧により維持されていること、獣医官との付き合いの多い農場では有病率が低いこと、マサイ族で生の牛乳や牛の血液を飲用する感染を助長する行動が継続されていること、人の感染も多いこと、子牛へのワクチン接種ならば支払い意欲が高く、問題は住民がブルセラ病について知識を得る機会が少ないことなどが分かっています。これまでの疫学的知見から、ブルセラ病常在国における住民主体の制御方法の可能性が示唆されています。
 もう一つ取り組んでいるのは狂犬病です。狂犬病ウイルスには大変有効なワクチンが存在しますが、残念ながら近年ベトナムで死者数が増加傾向にあります。この状況に対応するため、2016年にタイ・ングイェン省で、狂犬病ワクチンの接種と犬の係留に寄与する社会経済学的因子とワクチンへの支払い意欲について、ハノイ公衆衛生大学と本学の食糧経済学者と共同で質問票調査を実施しました。この結果、狂犬病およびその制御に関する知識が意識を高め、ワクチン接種に繋がっていることが確認されました。また山間部に住んでおり経済的に豊かでない家庭および地域でワクチン接種率および犬の係留が不十分で、その結果犬の狂犬病の温床になっていることが分かってきました。2018年からは南アフリカ共和国の国際獣疫事務局(OIE)狂犬病センターであるオンデステポート獣医研究所と共同で、過去20年間の南アフリカ共和国における狂犬病データとウイルス株の情報を用い、狂犬病感染拡大様式について詳細に理解していく研究を実施します。

酪農学園大学獣医疫学ユニット(2013.11.20)|
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